…。

異界錬金 一章「種子」2




さあ、君はいったいどんな花を咲かせてくれるのか。



*
 その日の朝、ウィンフィールドがもたらした報は、九郎とアルを渋面にして余りある内容だった。
「…ウェスパシアヌスに…クラウディウス…」
 耳に不快な響きを残すその名前。もう二度と出会うはずのない名前。
 それが今、凶事を伴って再び九郎の耳を穢した。
「ふん。またぞろ不愉快な名前が出たものだな」
 アルもその言葉どおりに不愉快そのものといった顔をする。
「くそ! 俺のせいだ…こっちに戻ったときにどうにかしておけば…!」
 自分の不甲斐なさを呪う。
 あの激しい戦いを潜り抜け、奇跡を起こしたことに安堵して、どこかで甘く見ていたのかもしれない。
「で?どうする気だ九郎」
「そんなもん。とっ捕まえてボコるに決まってんだろ」
「だからどうすると聞いているのだ。彼奴等の力は知っておろう? デウスマキナでも出されたらどうする気だ」
 分かってはいたが考えたくもなかった。
「何とかならねえ?」
「ならん」
「あ〜〜〜〜。でもよ、ホラ。破壊ロボはデモンベイン無くても何とかなってるし」
「変態のオモチャとデウスマキナを一緒にするな」
「…だよなぁ」
 九郎は嘆息を漏らした。

 魔を断つ剣、人の造りし鬼械神・デモンベインは今この世界に存在していない。いや、正確には存在はしているが生きてはいないというべきか。
 それはアルが、そしてデモンベイン自身が望んだ結果だった。
 
 恐怖と絶望に彩られた戦いに勝利し、全てを正しき形へと取り戻したデモンベインは、それと引き替えに帰るべき世界を見失った。
 永遠に漂う宇宙。
 悠久に彷徨う宇宙。
 しかし九郎はその永遠をアルとともに生きることを選んだ。いつまでも共にあることを。
 ほかの全てをなくしても共に。
 そして裏切り。
 愛するがゆえの裏切り。
 アルはデモンベインの残された力の全てを九郎のために使った。
 デモンベインもそれに応えた。
 ふたりの主、大十字九郎。
 彼の輝かしい未来のために、彼が彼らしく生きていける場所へ帰す為に。
 ふたりはその全てを賭けてみせた。
 『彼』の心臓たる、銀鍵守護神機関「コル・レオニス」のオーヴァー・ロード。
 次元を超える扉を開くただひとつの方法。

 そして、別れ。
 アルが永き刻を彷徨い、もう一度九郎のいる世界へ辿り着く。その奇跡が起きるまで。
 

「ってなことがあって今デモンベインは動かせないわけだが!」
「誰に言っておるのだ汝は…」
「いや、何となく」
「また訳の分からぬことを…」
「まぁいいじゃねえか。ところでよ、アル」
「なんだ主」
「いい加減コレどうかと思うんだが」
 自らの姿に視線を移しそれから周囲を見渡す。
 皆が皆、視線が合わないようにそっぽを向いている。
「この街の人間にはもう見慣れたモノだろう」
「この辺まで来たことは無いだろ。見ろ。皆さんの可哀想なものを見る目を」
 九郎は黒いボディスーツに身を包み、マギウス・スタイルになっていた。
 そしてその手にはひも付きの鉄球。鉄球には小型化したアルがしっかりとしがみついてゆらゆら揺れている。
 何をしているのかといえば、捜索魔術の基礎中の基礎、「ダウジング」なのだが、知らない人が見ればぴっちぴちの妙な格好をした男が、手からかわいいマスコットをぶら下げてウロウロしているようにしか見えない。
 変質者っぽいといえば、限りなくぽい。
「目立つわ、恥ずかしいわ…最強の魔導書とその魔術師にしては余りに余りな姿じゃないか?」
「一番合理的で簡単で確実だ。目立って恥ずかしいのは汝であって妾ではない。何一つ問題はないな」
「……」
 世間体とかそういったものとは無縁のアルらしい、ばっさりと切り捨てるかのような意見に返す言葉もなく押し黙る。
 結局の処、九郎の魔術はアルの存在あっての代物だ。文句があるなら自力で探せといわれるのが関の山だろう。
 ダウジング程度であれば自分一人でも出来ないことはないのだが、その精度は最強の魔導書たるアルを使った時に比べ、著しく落ちる。時間と手間を余計に費やすだけだ。
 ため息一つ。
 諦めて世間の冷たい視線を浴び続けることにする。
 覇道邸に進入したウェスパスアヌスらが、その後何処へ消えたのか手がかりひとつ無い。だが、こうしてダウジングで追跡できるだけの魔力の残滓があるということは、少なくともアーカムから外へは出ていないはずだった。
「九郎!」
「ああ」
 延々数時間歩きつめ、そろそろ日も暮れようかという時間になった頃、突然アルが鋭い声をあげた。
 揺れが少し強くなっている。徐々にではあるが確実に目標へ近づいているようだ。
「もう少しか…気を抜くなよアル」
「汝こそな」
 鉄球の指し示す方向に導かれるまま、路地をひとつ曲がる。
「あぁ〜食った食った。松波亭の梅ステーキ定食は絶品なのであーる! ん?」 
 ぐらり。
 どこか既視感を覚える光景に、たった今引き締めた気が一瞬にして霧散した。半ば条件反射的に目の前に現れた物体に全体重を乗せた回し蹴りを叩き込む。
「貴様だいじゅぐべらっ!!……ぴぎっ!!」
 どうやら上手くいったようで、気持ちよく昏倒してくれたその物体を躊躇なく踏みつけると何事もなかったかのように捜索を続行する。
「九郎、今…」
「何も見てない。何もいなかった! 全て気のせいだ。行くぞアル! 邪悪が俺達を待っている!!」
「…必死だな」
 事態は急を要する。はっきりと言ってしまえば、今、珍妙なものにかまけている暇はない。出来ることなら。
「あれ? 博士、また随分前衛的なポーズロボ。 ……!! あ、ダーリン!」
「な、ななな納得いかんのである! 何であるか今の理不尽な一撃は!! 待つのである大十字九 郎!!」
 後方で上がる歓喜と非難の声。仕方なしに振り返る。
「くそ、仕留め損ねたか。しぶてえ野郎だ」
「どっちが悪人か分からん顔しておるぞ汝」
 首がかなりありえない方向へ曲がってしまっているが、まったくもってピンピンしている白衣の変人。
そしてその傍らに控える僧衣に似た服を纏った少女。
 言わずと知れた。である。
 九郎はにこやかに一度くるりと振り返った。
「よ、よう。久々だなウェストにエルザ。今日は実に天気がいいな。あっちの方で何か楽しげかつ怪しげな事やってたから早く行った方がいいぞ。じゃ、俺いま忙しいから! そういうことでまたな!」
 爽やか全開に別れを告げ、したっ!と右手を上げながら二人に背を向ける。
「へ? あ、う、うむ。達者でいるのである」
 反射的に返事をし、わきわきと手を振るウェストに傍らの少女が呆れ顔で突っ込みを入れる。
「博士、頭悪すぎロボ」
「お? おおおおおっ!? 何をあっさり見送っておるか吾輩っ!? ま、待つのである大十字九郎!!」
「ちっ、おとなしく流されていればいいものを」
「まったくだ」
 策を失した九郎たちの落胆を余所にドクター・ウェストはどこからか取り出したギターをかき鳴らしながら高笑いをあげる。
「ふぇ〜はっはっは! 他の凡俗どもは騙せても、この大・天・才! ドクター・ウェストまで騙せると思うのではないのである!」 
「しっかり引っかかっていたロボ」
「袖触れ合うも多少の縁! いざ尋常に勝負するのである!」
「間違ってるロボ」
「さあ、行くのだエルザ! 今日という今日こそ、宿敵大十字九郎をヘビ花火よろしく地べたに這わせてやるのである!!」
「全然聞いてやがらねえロボ」
 嘆息ひとつ漏らし、エルザがこちらへ向き直る。
「そういうわけでアホとはいえ作り主の命令なので、やっぱり戦わなくちゃいけないロボ。愛する二人を戦わせるなんて運命はかくも残酷なものロボ」
「いや、そう思うなら勘弁してくれ正直」
「命の削りあいの中で二人の愛はどこまでも燃え上がるロボ」
「ちょ、ちょっと待て。な? また今度相手してやるから、今日のところはおとなしく帰ってくれ」
「さあ、いざ絶頂まで駆け上るロボ! 行くロボダーリン!」
「お前も人の話を聞けえっ!!」
 問答無用。
 頭上より強襲するエルザを間一髪横っ飛びにかわす。直前まで立っていた場所が、粉々に粉砕される。
「おいおいおい!! 当たったらどうすんだコラ!!」
「あんなんで壊れるダーリンじゃないロボ」
「いや! 壊れる! 壊れるから!!」
「じゃあうまいこと受け止めるロボ! エ・ル・ザ・の・愛・ご・と♪」
「御免こうむりたいのですがっ!」
「えぇい寄るな、破廉恥な機械人形が!」
「うっさいロボ。再生紙」
「だ、誰が再生紙かっ! 妾はしっかりパルプ100%っ…!」
「気が散るからだまれぇっ!」
 この通りにいた人たちには不幸以外の何者でもない出来事がこうして幕を開けた。
 まずは、半ば漫才じみた間の抜けた会話とは裏腹に、周囲を盛大に巻き込んで、壮絶な格闘戦が開始された。
 勢いを殺せずに突っ込んだ屋台が倒壊し、柱を折られた八百屋が崩れ落ち、踏み抜かれた消火栓が破裂する。
 あちらこちらで怒号と悲鳴とひやかしの声があがる。
「いよぉ〜し! そこだっ! やれ! あぁっ、惜しい!! えぇい、ちょこまかと! さっさと一発くらってお陀仏するのである!!!」
 なかには当事者の野次のようなものも混ざっているが。
「いいっ、加減にっ、しろ、っての!」
「九郎! いいから叩き壊して黙らせろ!」
「それができりゃとっくにやってるって!」
 変態とはいえ、紛れもない天才であるドクター・ウェストが作り出したこのエルザ。彼女の有している戦闘力は半端ではない。本気でかかっていっても勝てるかどうかは甚だ怪しい。
 際限なく、間断なく繰り出される攻撃の隙間を縫って、幾度も反撃を試みているが、九郎の刃はいまだエルザに触れることができずにいた。
「うわははははははははは! 死ね! むしろ氏ね、大十字九郎!! 死んでアーカムのダシになるがいいのである!!」
「それを言うならこやしロボ」
 後方でひとりヒートアップするウェストに突っ込みつつも、エルザは手を休めず、衰えることのない攻撃を叩きつけてくる。
 マギウスになっているとはいえ、こちらは生身の人間だ。疲れを知らないロボットとの長期戦は不利以外の何物でもない。
「いっそ逃げるか」
 上手いこと隙を突いて逃げる。思いついてみれば、それが一番の選択肢であるように思える。
「そうしろ。こんなのにかまけていては彼奴等に逃げられてしまう」
 アルからも賛同の声があがる。
「よし、なんとか隙を作るぞ!」
「おう!」
 横合いから回転肘の要領で襲い来るトンファーを側転して避けると、一旦飛びのいて距離をとる。
「さぁて、どうするかな…」
 間合いが縮まらないよう慎重に距離をとりながら、様子を伺う。
 少しでも気を抜けばエルザは一瞬で攻撃圏内に飛び込んできてしまう。
 そう、飛び込みだ。
 次の攻撃の起点も、おそらくは驚異的な速度の飛び込みから始まる。今までの攻撃から判断するに、かなりの確率で的中するはずだ。
(ならば…)
 エルザの動きを封じ込め、こちらが逃げるだけの時間を稼げる魔術。それを心にイメージし、自らの作ったロジックに従い術式を構成する。
 一呼吸。
 術は時間を要さず完璧に組みあがった。あとはエルザの飛び込みに合わせ開放するだけだ。  じり。と、一歩間合いを詰める。
 エルザは右腕を前にした左構え。初手はまず左側、或いは正面から来る。注意すべきは右側への蹴りだ。タイミングは一瞬。集中さえ解かなければ確実に捕らえられる。
 違和感を感じたのはその時だった。
「…!?」
 周囲があまりにも…静かすぎる。
「ウェスト…?」
 いつのまにか、演奏を通り越してもはやノイズの域にまで達していたギターの音が聞こえなくなっていた。
 ドクター・ウェストを見ると、彼は九郎達から視線を外し、普段の彼が見せない、やや厳しい表情でどこか遠くを仰ぎ見ていた。
「何だ? ついにボケたか?」
「だといいがな」
「もともとボケたようなモンロボ」
 対峙しつつもドクター・ウェストの動向に注意を向ける。
 やがて、ドクター・ウェストは、後方230度に折れ曲がっていた首を無理やり元に戻すと、エルザに向かって叫んだ。
「エルザ! 今日はそこまでにして退くのである!」
「は?」
「へっ!?」
 信じられない出来事が起きた。九郎はそう思った。
 あのドクター・ウェストが、宿命のライバル(と思いこんでいる)を前にして戦闘から退くなどということを口にする。決してあり得るはずがない出来事だった。
 現状、それは九郎たちにとって願ってもないことではあるのだが、その状況を忘れさせて余りある違和感に思わず静止してしまう。
「博士?」
 エルザも不審に思ったのか、怪訝な顔でドクター・ウェストを振り返る。
 戦闘中に見せるには圧倒的な隙だが、そこを攻撃する気にはなれなかった。たった今起きた現象があまりに不可解で、完全に戦う気を削がれていた。
「…ので…あるか」
 ウェストが何かを小さく呟いた。
 直後。

ドウン…!

「な…!」
 地響きとともにドクター・ウェストの見ていた方角から炎が吹き上がり、その向こうに見慣れた寸胴の巨大な影が姿を現した。
 両腕にドリル。頭頂部にもドリル。最凶というよりは愛嬌と言った感じのデザインだが、その行動は外見とは余りにかけ離れている。
 毎度おなじみ、破壊ロボだ。
 見慣れたパターンに回帰したからか、九郎はそこでようやく我に帰った。先ほどのドクター・ウェストの不審な動作は、油断を誘う作戦だったのかもしれない。
「おいおい、今日は随分と早いお出ましだな!」
 いつもよりも展開がやや早いが、こうなってしまえば決着も早い。むしろ九郎にしてみればエルザとの一騎打ちがなくなった分、気が楽というものだ。
 エルザ用に編んでいた術式を対破壊ロボ用に組みなおす。
「いや、待て九郎。様子が変だ」
 異変を感じ取ったのはアルが先だった。
「なに? いったい…うわぁっ!!」
 津波だった。
 異変の正体を尋ねようとした九郎を轟音と炎と煙から逃れてきた人の波が一気に呑み込んだ。
「破壊ロボだあっ!」
「逃げろ! 今日はいつもより見境いないぞっ!」
「死人が出た!!」
「おかあさーん!」
 ぶつかり合い、我を失い、転倒し、引き倒し、殴りつける。
 通りは逃げまどう人々の怒号と悲鳴で埋め尽くされ、ものの数秒で阿鼻叫喚の様相が作り出された。
「お…おい。いったい何がどうなって」
「わからん! だが傍観していられる状況ではないぞ!!」
「た、たす…」
「う」
 突然のことに呆然と立ちつくす九郎とアルの目の前に、半身を血と火傷で赤く染めた老人が倒れ込む。脇腹が削げ、ガラス片が大量に突き刺さり、見るからに重傷。いや、おそらくは致命傷だ。
 一瞬の逡巡のあと九郎は迅速に行動した。
「じいさん! しっかりしろ!!」
 九郎は彼を抱えあげると群衆を避けて路地の脇へと運ぶ。荒い吐息に大量の血が混ざっている。
(あぁ…助からない)
 見ず知らずの人間。だが九郎の胸は激しく痛んだ。ようやく群集を抜け、老人の体を地面に下ろしたときにはすでに遅く、彼は既に物言わぬ肉塊へと変わってしまっていた。
 九郎は混乱していた。
 こんなことは最近のアーカムでは見られるはずのない光景だった。
 あってはならない光景だった。
「なんだよ…どうなってる!?」
「九郎…」
 にちゃ。
 老人の背に回した手が血にぬめる。
 視界が紅く染まる。
 九郎の怒りは一瞬にして沸点に達した。
「ウェスト! 貴様ぁ…!!」
 破壊ロボの主がそばにいる。この光景を作り出した男がここにいる。
 いつものドクター・ウェストならば全くではないが、無駄な怪我人も死人も出さない。必要満足以上の破壊活動もしない。
 悪党であり、敵であることは確かだが、そういった点があるからこそ九郎は彼を生かしておけたのだ。
 だが今その均衡は破られた。裏切られたような気持ちで、九郎はドクター・ウェストを睨み付けた。
「………」
 ドクター・ウェストは未だ黙ったまま、破壊ロボを見つめている。
「は、博士。どうなっているロボ!?」
 エルザもいつもとあまりにも違う状況に戸惑った様子を見せる。
「……」
「博士?」
「…くぞ」
「?」
「ぃぃいいっ行くぞエルザぁ〜〜!! 吾輩に続くのである!!」
「え? あ、あぁ!? ちょっと待つロボ博士!」
 押し黙り、何かを耐えるようにジッとしていたドクター・ウェストが、唐突に叫びをあげ駆けだした。いきなりの行動にエルザが慌てて追いかける。
「待て、ウェスト!!」
 一呼吸遅れ、九郎も後を追う。
 ウェスパシアヌスの方も気がかりではあるが、目の前で罪なき市民を殺傷したウェストに対する怒りの方がまさっていた。
 今取り逃がすわけにはいかない。
 だが、ドクター・ウェストは科学者だというのが疑わしいほど俊敏に、人の波を力強く掻き分けてぐんぐんと走り去っていく。
 すでに一歩出遅れている。普通にしていたらとてもじゃないが追いつくことはできない。
「アル! 飛ぶぞ!!」
「待て九郎!」
マギウス・ウイングを広げ、大地を蹴った瞬間、アルが制止の声をあげる。
「ッ! な、何だ?」
 ふわりと失速し着地する。
「な、何だってんだよアル! 奴が逃げちまうじゃねえか!」
「見ろ九郎!」
 アルが指し示すもの。
 先ほど戦闘の邪魔になるからと、腰にぶら下げた鉄球。
 覇道邸よりウェスパシアヌスの魔力を辿ってきた鉄球。
 それが今、瓦礫と炎の中で蠢く破壊ロボを示し激しく回転し、揺れていた。
「おいアル…」
「うむ」
「じゃあアレ、ウェストじゃないのか?」
「さぁな。つるんでおるのやもしれんし、無関係かもしれん。どちらにせよ優先順位を誤るな。妾達の敵はウェストなんぞではなく、死に損ないのアンチクロスだということだ」
「変態に構ってないで、あそこのデカブツを叩きつぶすのが先って事か」
「そういうことだ。探す手間が省けたではないか。随分とサービスがよいな、今度のアンチクロスは」
 冗談めかして不敵に笑う。
 だが九郎は気付いていた。アルの瞳が悲しみと怒りに淡く揺れていることに。
 その目は九郎が一番見たくないもののひとつだった。そしてそれは、この五年の間、九郎が忘れていたものを呼び起こすには充分だった。
(上等だ…再び俺の前に現れたことを後悔させてやる…アンチクロス!!)
 溢れ来る憎悪と怒り。
 今度こそマギウス・ウイングを広げ、地を蹴る。
 黒翼の魔術師が宙へと舞い上がりアーカムの空を駆け抜けた。




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