もう何がしたいのやら。

渇いて飢えて三千里(後編)



 大食い大会の会場は予想以上に盛り上がっていた。
 ミスカトニック大学の広場を利用した特設ステージ。
 俺は今そのステージの上にいる。
 ゼッケン96。
 俺の他にも10人からの選手がステージ上に整列している。
 皆が皆ここまで2回の予選を勝ち抜いてきた猛者達だ。
 成る程、殆どがいかにも大食漢といった感じの大男たちである。

 今は司会が各選手の紹介を行っている。
 どこかで見た司会だと思えば姫さんのとこのソーニャだったりする。
 意外と暇なのか、覇道財閥。

 
「はーい! 次は今大会のダークホース、ゼッケン96!
 知る人ぞ知る、知らない人はもういっそそのまま知らない方がいいと思います!
 赤貧魔導探偵、大十字九郎選手!! 
 今回は食うに困っての参加と、一番ミットモナイ参加動機を持っていらっしゃいます!!
 予選ではうれし泣きしながら食べまくってました! 
 余った分を詰めてくれと言ったのは多分この人が最初で最後でしょう!」

 相も変わらず人を激しく傷つける内容で紹介してくださりやがります。
 わき上がる歓声、というか嘲笑。失笑。
 晒し者かよ。
 そして、

「はい! 皆さん拍手っ!! 今大会の紅一点。可憐です、カワイイです。食べたものはいったいどこに収まっているのでしょうか? ゼッケン97! アル・アジフ選手!!」
「おぉぉぉおおおおおおおおおっ!!」
 客席の男性陣から一斉に不気味な歓声が上がった。
 そう。
 何故かコイツもちゃっかり参加している。
 客席では予選を見ていた男子学生達が早くも親衛隊を結成し旗を振っている。
『L・O・V・E! AL!』などと垂れ幕まで下がっていたり。
 先程この場に来て初めて俺はアルが参加していることを知った。
 流石に驚きを隠すことが出来ず、さりげなくステージを移動し小声でアルに話しかける。
「おい、何でお前が参加してんだよ!」
「ふん、妾を差し置いて汝だけオイシイ思いをしようなど許されるとでも思っておるのか?」
「お前昨日まで俺を差し置いてさんざんオイシイ思いしてたんだろうが!」
「ソレとコレとは話が別だ。それに二人で出れば優勝の確率も上がるではないか。ん?」
「くっ、た、確かに」
 アルの言うことにも一理ある。
 だが、それだけでは割り切れない何かが俺の中に深い溝を穿っている。
 そして、その溝をさらに深めるアルの言葉。
「まあ、もっとも汝に勝たせてやる気は毛頭ないわけだが」
 などと抜かす。
 い、いちいち可愛げがねえ。
 こうなるともう売り言葉に買い言葉だ。
「け。そりゃ俺だって同じだ。お前に賞金なんぞ持たせたところで有効活用できっこないからな。
 悪いが全額滞納家賃に使わせてもらうぞ」
「ほぉう。ちなみに妾が予選一位だったそうだが? いろいろ吼えてた割りに存外汝も大したことないな、ふふふ」
「な、なにぃ!!? 違う!予選は感動の余り思わず味わってしまっただけだ! 俺の本気はあんなモンじゃないぜ!」
「良かろう主。その本気とやらで最強の魔導書たる妾に勝てるというなら勝ってみるが良い!」
「ああ上等だ!!やってやろうじゃねえか、コンチクショウ! たった今からお前は俺の敵だ!」
「ふん、望むところだ!」
「○あ△×K♪Д■□っ!!!!」
「な△▼○の♪★●□っ!!!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜!!ぷいっ!
 お互いを睨みつけた後同時にそっぽを向く。
「すいませーん96番と97番のお二人。物凄い進行の邪魔なので大声での討論、議論、痴話喧嘩のたぐいはやめてもらえませんか〜?」
 ソーニャが見かねてツッコんでくる。
 …思わずエキサイトしてしまった。
 へこへこ頭を下げて元の位置に戻る。
 アルのほうを見るとそこには
「ふふん」
 いつもの不敵な笑み。
 …負けられねえ。

 その後、数人の巨漢達の紹介が済んで、ある三人の男達の紹介が始まるとまた会場がどっと沸いた。
 そう、俺たちを含めこの三人がいるからこそ会場は妙な盛り上がり方をしているのだ。

「はい、今度は女性の皆さん拍手! 男前度ナンバーワン。 ゼッケン7番、リューガ選手! 好きな食べ物……『ナコト写本』!? なんですかね! 黒山羊さんの親戚かなにかでしょうかこの方は!」
 爽やかな好青年が壇上から手を振る。
 アルの時と逆で今度は女性客から黄色い歓声が上がった。
 しかし何故だろう? どこかであったことがある気がするのだが。
 思い出せない。

「はい次、こちらの方も異色です! 腰に差した2本の刀! そうですサムライです! ミフネです! ゼッケン4、ジャック・ロジャース選手! 先程同姓同名で背中を刃物で斬られた青年が校舎裏で見つかりましたがきっと無関係でしょう!!」
 無関係なわけあるか! 誰がジャックだ、どこからどう見ても奴だろうが!
 本来なら魔導秘密結社の幹部の一人だったあの男。
 はっきりと想像がつく。コイツは俺と似たり寄ったりの貧乏さんだ。
 あのみすぼらしい感じを見る限り、大方修行にかまけすぎて食うに困ったに違いない。
 スカした顔で腕なんか組んじゃってるが、まさか追い剥ぎまがいのことをしてまで参加するとは。
 流石はアンチクロス。常識というものを完璧に度外視している。侮れん。
 いろんな意味で。

 そしてさらに…
「さあ! お待たせしました! 前回優勝者、シードにより本戦よりの出馬です。我が覇道の誇る最強執事、優雅なる無限胃袋、ゼッケン0、ウィンフィールド選手!! 今日も華麗な食べっぷりを期待しております!! ちなみに公平を規すために予選と同じ量をすでに食していただいております」

 ………なんで主催者側の人間が出ているのかとか、前回優勝かよ! とかいろいろ言いたいことは山ほどあるが、あの人もキッパリと常識規格外の人間だ。考えるだけ無駄というものだろう。 

 ともあれ、例年にないツワモノ(キワモノともいうが)達が活躍しているということで、会場は異常な程のヒートアップを見せていた。
 トトカルチョの倍率もさぞや狂っていることだろう。
「さあ、それではこれより準決勝を始めます! 勝ち上がるのは上位5人! 食べていただくのはコチラ!!
 香ばしいソースの香り、紅しょうがが勝負の決め手! そうです、ヤキソバです!!!
 選手の皆さん準備は宜しいですか!? それではレディ〜〜〜〜〜〜、ふぁいっ!!!!」
 カーン!
 ゴングが鳴った。
 いただきます!


 カーン!
 ごちそうさま!

 ふ。終わってみればどうという程のことも無い。
 準決勝は残るべくして残ったキワモノ5人の圧倒的な勝利に終わった。
 自信満々だった巨漢達はまるで悪夢でも見たかのような顔をして戦場を去っていった。

 さて、決勝は一時間後だ。
 今は5人全員がまるで何事も無かったかのように涼しい顔で控室で休んでいる。
 自分のことを棚に上げて何だが、こいつらの胃腸はいったいどうなっているのだろう。
 さすがは魔都アーカム。はたして謎が多い。
 
「大十字様、アル・アジフ様。なかなかに見事な食べっぷりでございました」
 俺とアルが部屋の片隅で余り物の焼きそばをせっせとタッパーに詰めている所へ執事さんが話しかけてきた。
 人のことを褒めてはいるが、それはきっと余裕からくるものだろう。
 準決勝では執事さんはブッちぎりのトップだったのだから。
 2位が俺で、あとはおよそ横一線。
 悔しいが執事さんを何とかしない限り優勝は無いとみていい。
「いや、でもさすが執事さんだ。前回優勝は伊達じゃない」
「いえいえ。大十字様もまだご本気ではいらっしゃらないようで」
「何いってるんです、やだなあ執事さん。あははははは」
「ふふふふふ」
 一見和やかだが執事さん。目、目が笑ってない!
 アルカイックスマイルを浮かべて見えない火花を飛ばしてくる。
 怖ぇよ。

「ふ。まだまだ本気じゃないのは拙者とて同じよ」
 部屋の反対側から聞こえた低い声に俺と執事さんが同時に振り返る。アルは気にも留めずに焼きそば詰めの内職だ。つまみ食いはよせ。
 ティトゥ…じゃないジャックが会話に割り込んできた。
「ふ。世界は拙者が思っていた以上に広いようだ。まさかこのような場でお主等のような戦士に出会えるとは思ってもみなんだ。さて、お主等名はなんと言ったか」
 っていうか『戦士』ってあんた…。
「ウィンフィールドと申します。以後お見知りおきを」
 普通に答えてるし。
「………………大十字九郎だ」
「拙者はティっ…けふ! ん、んんっ!じゃ、ジャック・ロジャースと申す。戦士ウィンフィールド、そして戦士大十字九郎。この後のお主等との戦い…楽しみにしているぞククク」
 言いながらニヤリと口を邪悪に歪めて笑う。
 その瞬間奴から放たれるある種の「気」。
「!!!」
 く! なんと言うことだ。まさかコイツこれほどとは!
 執事さんは気が付かないのか、それとも受け流しているのか。
 俺は「それ」に耐えるのに精一杯だというのに!!


 …………前歯にしこたま青のり付いてるぞ、ジャック。



「歯に青のりついてるよ」
「なにぃぃぃいっ!!」
 …ナイスだリューガ青年。




 そして遂に時は来た。
 やるべきことはすべてやった。
 後は全力を尽くすだけだ。

「れっでぃーすえーんじぇんとるめーん! お待たせ致しました! これよりアーカム大食い王選手権決勝戦を行います!!! 見ているだけで胸やけしそうな分量を食べ尽くし、それでもなお渇き、飢えている歴戦の猛者達! いずれ劣らぬフードファイターです! しかしそれでも玉座はひとつ! 勝者はひとり!!! さあそれでは、選手の皆さんの入場です!!」
「おぉおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 なんだかえらく大袈裟かつ大仰な音楽とスポットライト、さらにスモークに包まれて入場すると、一斉に会場が沸いた。
「うわ…無駄に金かけてやがるな。覇道財閥」
「全くだな。その分、もっと皿への盛りを多くして欲しいものよな」
 横で俺と同じような呆れ顔を浮かべてアルが頷く。
「このセット造るのだってきっとウチの家賃が3年くらい先払いできるんだぜ、きっと」 
「3年で済めばよいがな。ま、優勝すれば家賃も払えるのだろう?」
「ああ、ホットケーキも毎日甘いやつが作れるぜ。バター付きで」
「それは…夢のようだな」
「石鹸も廃油から作んなくていいんだ」
「そんなことしておったのか…」
「まぁな。他にもいろいろ…」
「いい。聞きたくない」
 心底げんなりといった感じで首を振るアル。
「是が非でも勝たねばならん気がしてきたわ」

 俺たちが日ごろの貧しさを再認識し、かみ締めている間にステージ上ではソーニャが軽快なトークで会場を盛り上げている。
「では、物書き素人の筆者が進め方にしこたま困っているようなのでさっさと行きましょう! 決勝戦で食べていただくのはコチラ!! 大食い大会といえばコレ! 定番中の定番、ホットドッグです!!」
 5つの特別テーブルから山積みになったホットドッグがせり上がってくる。
 香ばしく焼きあがったパンに、ジューシーなソーセージ。互いにほかほかと湯気を出し、否が応にも食欲をそそる。
 うっとり。
「では、選手の皆さんいざ、決戦の地へ!!」
 一瞬全員が互いの顔を見る。ぶつかり合う視線が激しく火花を散らす。
 先ほどまで温和な顔をしていたリューガ青年まで鬼気迫る形相になっている。
 なるほど、それが本性か。
    どうやら彼も只者ではないようだ。
「大十字様。お覚悟を」
「戦士ウィンフィールド、戦士大十字九郎、永き修行の果て、拙者が辿り着いた境地をみせてやろう」
「ふん、妾を甘く見てもらっては困るな。汝等に悠久を渡り歩いたものの恐ろしさを教えてやろうではないか」
 それぞれが不気味な笑いをたたえて威嚇しあっている。
 たかが大食い大会でなんでこんなに死の匂いをぷんぷんさせているのだこいつらは。

そして、
「では、皆さん健闘を!! れでぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、ふぁいっ!!!」
 
かーん!
いただきます!

 決戦のゴングが鳴った。
 全員が一斉に目の前のホットドッグに食らい付く。
 あぁ、幸せっ!
 ひとつ、ふたつ、みっつ…横目でライバルたちのスピードを確認。
 ほぼ互角!
 ちっ!みんな今まで本気じゃなかったようだな!
 6、7、8…未だ互角!
 15、16、17、18…
 20を越えたあたりから変化が起こった。
「ひひまふよ!!(行きますよ!!)」
「はひぃ!?(なにぃ!?)」
 執事さんが回転をあげた。なぜかボクシングのウィービングしながら次々とホットドッグを平らげていく。
 意味あるのかそれ!?
 会場が俄然盛り上がる。
 しかしその食べ方はともかく、流石はチャンプ。早い!!
 これはもう余裕こいている場合じゃない。
 俺は先程の休憩中に準備しておいた作戦を実行に移すことにした。
 客席に目をやる。
 作戦の準備が整っていることを確認。
 悪いな執事さん!落ちてもらうぜ!!
「ひふひさん!!」
 食べながら執事さんを呼ぶ。
「!?」
 手も口も止めずに執事さんがこちらを向いた。その瞬間。
 俺は黙って客席最前列の一部を指差した。
 反射的にそちらを見る執事さん。

 ぶばふぉっ!!!!!

 一撃だった。執事さんは口からホットドッグの残骸を撒き散らし、美しく散っていった。
 さらば。偉大なる王よ。
「あーっと! 優勝候補、トップを走るウィンフィールド選手に異変!! いったい何があったのでしょう!?」
 ソーニャも突然撃沈した上司の姿に驚きを隠せないようだ。
 俺の指の先にあったもの。
 そこにはジョージがいた。
 その手に…

 『いつかの見合い写真 by引き伸ばし大判サイズ』
 
 を手にして。
 久々に見るアーカムの怪嬢の麗しき御尊顔に俺自身危うく吹き出し掛けたが、とりあえずこれで最大の障害は排除した!
 ジョージがグっと親指を立てる。俺も親指を立て返す。
 くくく。戦場では智に長けたものが勝者となるのだ。
 
 だが、俺の作戦は執事さんのみにとどまらず、別の選手にも思わぬ効果をもたらした。
 リューガの動きが止まったのだ。
「!?」
「ふぁ」
「おおっとぉ!? ここで、何故かリューガ選手もストップ! いつにも増して波乱の予感がします今大会!!」
 ソーニャがすかさず実況。
 リューガは先程俺が指差したあたりを見ている。
 まるで放心するかのように目を開いて一点を見つめている。
「ふぁ…」
「?」
「ふぁ……」
「?」
「ふぁいふぁ―――――――――!!!!」
 うわ、汚え!
 絶妙に咀嚼されたパンとソーセージをぶちまけてリューガが叫んだ。
「う、うわわわわわわっ!」
 客席から聞こえるうろたえた馴染みの声。ジョージの隣にいるライカさんのものだ。
「ライカァァァァァァァァっっっっっ!!!!!」
 目の色を変え、もう一度絶叫してステージを飛び降りるリューガ。
 え?何? 知り合い!?
「っきゃぁぁぁぁぁ! ちょ、リューガ待った、ちょっと待ったあ!」
「ライカアアアアアァァァァァァァァ!!!」
 ドガァァァァン!
 凄まじい威力の突きが繰り出され、客席の一部が吹き飛ぶ。
 げげ。すげえなアイツ。
「待ちなさいって! 落ち着いてリューガ! お姉ちゃんの話をっきゃあああ!!」
 お姉ちゃん!!?? アイツライカさんの弟か!!??? まじで?
 唐突に発覚した意外な事実と、いわくありげな関係に驚きつつもスピードを緩めず食べ続ける俺。
「どうしたことでしょう!? リューガ選手が突如乱心! 会場を破壊して回っています。うわ!こっちに来ましたあ!きゃああああー!」
「ライカ――――――――――――――ァァァァァアアアア!!!!」
「い、い、いい加減にしなさいリューガ! お姉ちゃんおこりますよっ!」
 どかーーん。
 ばきーーーん。
 ずがーーーん。
 会場は部分的に阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈していたが、脱落してくれるならば非常にありがたい。
 敵は…あとふたり!

 ティトゥ…ジャックも興味深そうにリューガとライカさんの追いかけっこを見ているが、それでもやはり食べ続けている。く、この騒ぎに動じないとはやるなこいつ!!
 30、31、32、33、34、
 まったくの互角。
 渇きも飢えもすべて互角。
「ふふぁふぁふぁふぁ。ははわははふふぁ!(ふはははは。なかなかやるな!)」
「ふぁんはほは!(あんたもな!)」
 もごもごやっていながら何故か会話が成立してたりするのが不可思議だが、ボクサーは拳で語り合うというから、そういった類のことなのだろう。
 隣をみるとアルが3,4個遅れてきている。
 どうやら俺とアンチクロスとの一騎打ちのようだ。
 徐々に速度を上げていく俺とジャック。
 だが、このまま行けば……半個分俺が勝つ!!
 奴にもそれが分かったようで、最後の勝負に出てきた。
「ふぇんひ、ふぁいふうひふふおふ!ひへふぇふぁふぉう!(戦士大十字九郎!見せてやろう!)
 ふぉふぇふぁふぇっはふふぉふぇひひへはふぇふぉうふぉはふぁほ!(これが拙者の手に入れた外道の業よ!)」
 湧き上がってくる魔力の波動。
 何だ!? 何をする気だ!?
 奴は勢い良く自らの服を剥ぎ、上半身を露出させた。
 そこにあるのは4本の…腕!
 しまった! やつにはこれがあった!
「あぁーっと! ジャック選手コレはすごい! なんと腕が四本!! しかしこれは!」
「……!」
 だが、俺はそこですぐ間違いに気づき、確信した。コイツは……
 コイツは筋金入りの阿呆だ。
「ふはははは! ふぉふぇへふぉはひふぁあああ!(ふはははは!これでおわりだあああ!)」
 四本の手にそれぞれホットドッグを握り締め狂笑するジャック。

「ふははははは、は、は、……はっ!」
 奴も気がついたようだ。
 たとえ腕が4本あろうが10本あろうが
 『口はひとつ』しかないという事実に。
 ひとつの口とひとつの手が稼動している間、うねうねとただ待ち続ける3本の腕。
 間抜けなことこの上ない。
「ふぁひいいいいい!?ふぁはなあああ!(何いいいいい!?馬鹿なああ!)」
 馬鹿はお前だ。
 この勝負もらった!
 一気に勝負をつけるべく速度を上げる!
 同時に2個3個のホットドッグを口に入れ咀嚼する。
 しかし、そこは外道の頂点に立つアンチクロス。
 そう簡単に済ませてくれるはずはなかった。

キン!

 かん高い鍔鳴りの音。
 俺の目の前で寸断されるホットドッグ。
 本気かコイツ! どうやら作戦の変更に出たようだ。
 2本の腕で食べつつ残りの腕で俺を妨害するという。
 まさかの暴挙に俺は慌ててソーニャに抗議する。
「ふぉい! ふぉううふふはってふぉうふぁいひふぇふふふぉ! いいふぉふぁ!?(おい!道具使って妨害してくるぞ! いいのか!?)」
「何言ってるかさっぱり分かりませんが、ルールに載ってないのでオーケーです!」
「ふぁんはふぉおお?(なんだとおお?」
 いい加減なルール作ってんじゃねえよ!
「ふふぁふぁふぁふぁ、ひへ、ふぇんひふぁいふうひふほう!(ふはははは、死ね、戦士大十字九郎!)」
「ふほおお!ほうはっはは!(くそおお!こうなったら!)」
 そっちがその気なら俺だってやってやる!
 行くぞ!!

アトラック・ナチャ!

 まず魔力の糸で奴を拘束。

バルザイの堰月刀!!

 瞬時に次の術式を行使。右手に必殺の刃を手にし、斬りかかる。
「ふはへええええええ!」
「ふぁひをおおおおおお!」
 ギン!
 間一髪、魔力の糸を断ち切ったジャックが俺の刃を受け止めた。
 ち! 流石に落ちぶれても元アンチクロス!
 伊達じゃねえ。
 キン!
 ギィン!
 ガシィ!
 打ち込み、受け止め、弾き、捌く。
 常人には見切ることが困難であろう神速の攻防。
「流石は魔導探偵大十字選手! サムライ相手に一歩も引けをとりません! しかしコレもう大食いまったく関係ないです!!」
 ソーニャが冷静に実況。まったくもってその通りだ。
 かれこれ十数合も打ち合っただろうか。
 まったく決着を見せない勝負の最中、俺とジャックはその声を耳にした。

「ふむ。はふほほ。ほういふのほはひは(ふむ。なるほど。そういうのもありか)」

「へ?」
「ふぁ!?」
 自分たちより一段低い位置から聞こえてきたその声。
 そして。
ドン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 一瞬遅れてやってきた衝撃。
 光の渦に飲まれ、その身を激痛に灼きながら、俺とジャックは自らの失策に気づいた。
 こういう勝負になった際に一番危険な奴を野放しにしていたことを。

かーん!
ごちそう…さ…ま……。



そして

「ほれ、もっとしっかりとやらぬか」
「はい」
 アルは賞金をひらひらさせながら絶対者の微笑みで俺に肩をもませていた。
 勝負は結局、俺とジャックがとんでもないルールを適用してしまったばっかりにアルがおいしい所をかっさらう形となり優勝した。
 今回の反省を活かし、来年からは名前を変えてサバイバル大食い王決定戦になるんだそうだ。
 何だそれ。
 賞金を手にしたアルは帰宅するなり滞納している家賃の件を盾に、さまざまな要求を俺にたたきつけてきた。
 はっきり言って背に腹は替えられないことを悟りきっってしまっっている俺は、アルに言われるがまますっかり下僕と化している。
畜生。
「そうさな、あとはビッキーズのチェリータルトでも買ってきてもらおうか」
「わ、わかった。チェリータルトだな」
「それから、千間堂のいちご大福」
「いちご大福な、って遠いな」
「文句を言うな。あと、ダンセイニの餌も忘れずに買ってくるのだぞ」
「お、おう」
 仕方なく財布を持って買出しにいく。
「ダンセイニの…ふむ。待て九郎」
 ダンセイニの名前が出たところでアルは何かを思いついたらしい。
 悪魔の笑みを浮かべて俺に擦り寄ってきた。
「んーふーふーふーふー」
 き、気味がわるい!
「な、何だよ」
「タルトも大福も餌ももう良い」
「へ?」
「今夜は妾とショゴスベッドで一緒に寝よう。さすれば汝の滞納した家賃、即払ってやろうぞ」
「すまん、ムリ」
 即答。
 いろいろなものが一瞬心の天秤にかかったが、恐怖が勝った。
 あんなもんで寝るくらいならパシリでも按摩でも何でもやったほうがましだ。
「なーーー! 何でだ、別に良いではないか! むしろ妾と寝られるのだぞ、喜んでもいいところではないか!」
「怖ぇんだって!!!」
「うーーーーーーーー! じゃあ、家賃が払えなくて追い出されても良いのか!?」
「お前も追い出されんだよ!」
「じゃあ、妾が払うから汝が出て行け!」
 涙目。何だこいつ。そんなにまでして一緒に寝たいのか?
 ガキじゃあるまいし。
「それは困るな」
「知ったことか! たった今から家主は妾ぞ! 荷物まとめて出て行くがいい!」
 ぽろ、と一滴。
 あーあ。だめだこりゃあ。
 帰ってきてからのこいつは何というか、どうあっても俺のすべてを掌握したいらしい。
 精神的に脆くなっている気もするが、今までを考えればそれも良い事なのかもしれない。
 そして……こうやって俺は段々とこいつに逆らえなくなっていくわけか。
 背中から滴る冷たい汗、がちがちとなる歯とがくがくと震える脚を無理やり押さえつけて…
 
 俺はダンセイニの上に横になった。 …
……
………
…………
…あれ?意外とイイ!? 
(了)



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あー。なんというか収集つきませんでした。
自分のSSネタ流用してるあたりで邪道。(見合い写真)
最後だけ無理やり甘ったるくしてみたけど、まったく別の話のようだ
だれか上手い文章の書き方教えてください。まじで。気が向いたら修正しよう…。



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